栁原久乃銅版画・樹脂
「貝殻の中に樹脂と銅版画を閉じ込め、薔薇の花や星の神話をモチーフとしたシリーズを制作・・・。」
「なかを覗き込むと、貝殻とい小さな枠の中に、樹脂がまるで水の水面や空気の層として世界を構成し、その中に銅版画で描いた絵が見えてくる・・・」
2009年の3月、去年のものです。
海港の安藤を扇ぐ潮騒と、観覧車に暮れ行く夕凪の、二折の盛衰が織り成す風情のギャラリーCASO。
そこの小部屋には、壁に貝殻、貝殻に樹脂。そして樹脂に銅版画というこの作品。
深さ8cmくらいの椀に汁をそそぎ、その中に一口の人魚の姿が透き通ったように固まり収まっている。
写真を見てもまったく写っていないが、人魚の背後に同じ人魚が多面に重なってレイヤー構造体となった3D幻想だったような記憶がおぼろげだ。
人魚姫のワンシーンだろうか。両思いを信じて最後まで行動すれば、お互い望ましい姿となり幸福をむかえる物語を人魚姫は伝えているが、二重に重なる姿の挿話は確かなかったはずだ。
もしこの二重、三重の構造は人格の数や無意識、反面をあらわしているのであるならば、過去を話すことや、これからの未来を話すことがうまく立ち行かなくなり、ストーリーの途中で固まってしまうような現時的な様相が浮きたつのだが。実のところ、ご本人とは面識がまったくないものですべて妄想で話している。
理想の時代も終わり、ハコモノも終わり、低成長期に移ったいま、生産に対する共同体としての理想や、理想的な人間像、また将来像をもてない人々であふれかえっている。
そんなときにこそ、幸福な指標を掲げるひとつとして加えてくれないだろうか。今を閉じ込め、ただひたすら幸福の現状維持で固められた封入樹脂のことを。
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